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東京地方裁判所 昭和62年(た)3号 決定

主文

本件再審の請求を棄却する。

理由

一  本件請求の趣旨及びその理由は、請求人提出の「第一八次再審請求書」と題する書面のとおりであるが、要するに、平沢貞通は、強盗殺人等被告事件について、昭和二五年七月二四日東京地方裁判所において有罪の判決の言渡しを受けたが、同人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見されたところ、同人は心神喪失の状態にあるので、同人の養子である請求人において、右判決に対し、刑事訴訟法施行法二条によって適用される旧刑事訴訟法五〇一条、五〇七条によって再審の管轄を有する第一審の裁判所に再審の請求をする、というものである。

二  しかしながら、以下に述べるとおり、請求人のいう右東京地方裁判所の判決が再審請求の対象となる確定判決でないことは明らかであり、したがって、また、第一審の裁判所である当裁判所に本件再審の請求について管轄がないことは明らかである。

1  右平沢貞通に対する前記被告事件の記録によれば、同人は、昭和二三年九月三日私文書偽造、同行使、詐欺、同未遂被告事件について、次いで、同年一〇月一二日強盗殺人、同未遂、殺人予備、強盗予備被告事件についてそれぞれ東京地方裁判所に起訴され、同地方裁判所は、右各被告事件を併合して審理した上、昭和二五年七月二四日、右のすべての事実についてこれを有罪と認めて、同人に対し死刑の判決を言い渡したこと、右第一審の判決に対し、同人及び弁護人から控訴の申立てがあり、東京高等裁判所は、昭和二六年九月二九日、第一審の判決同様、右のすべての事実についてこれを有罪と認めて、右平沢貞通に対し死刑の判決を言い渡したこと、右控訴審の判決に対し、同人から上告の申立てがあったが、最高裁判所は、昭和三〇年四月六日、上告を棄却する判決を言い渡し、更に同人からの判決の訂正の申立てに対しても、同年五月六日、これを棄却する決定をし、同月七日右東京高等裁判所の判決が確定したことが認められる。

2  右事実によれば、前記各被告事件の公訴の提起は、いずれも現行刑事訴訟法施行前であって、したがって、本件再審の手続は、刑事訴訟法施行法二条により、旧刑事訴訟法(大正一一年法律第七五号、以下「旧刑訴法」という。)及び日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律によるべきものであるところ、旧刑訴法四〇一条一項は、控訴裁判所は、適法な控訴申立てについて更に判決する旨規定し、控訴審は、覆審として、原審の判決の当否とは関係なく、更に新たに判決をすべきことを定めており、控訴審の判決があったときは、第一審の判決は当然にその効力を失うものと解されること(大審院大正一三年四月一七日第二刑事部判決等参照)、また、旧刑訴法四九〇条は、再審の請求は、別段の定めのある場合を除いて、原判決をした裁判所がこれを管轄する旨規定し、この原判決をした裁判所とは確定判決をした裁判所を指すものであることは明らかであることからすれば、本件再審の請求についてみても、第一審の東京地方裁判所の判決がその対象となる確定判決でないことは明らかであり、また、第一審の裁判所である当裁判所が旧刑訴法四九〇条にいう原判決をした裁判所に当たらないことも明らかである。

3  請求人は、前記のとおり、第一審である東京地方裁判所の判決に対して本件再審を請求し、また、第一審の裁判所に本件再審の請求についての管轄があることの根拠として旧刑訴法五〇一条及び五〇七条を挙げ、更に、弁護人は、その意見書において、右両条文を根拠にして、本件再審については、第一審及び控訴審の双方に管轄があり、第一審の再審手続が優先するものである旨、また、実質的には控訴審の判決は第一審の判決に対する控訴を棄却したものであると見るべきである旨意見を述べるが、本件において第一審の確定判決が存在しないことは前示のとおりであり、また、請求人らが挙げる右両条文が本件再審の請求について第一審の裁判所である当裁判所にその管轄があることの根拠になるものでないことは明らかであって、請求人及び弁護人の右意見には賛同できない。

三  したがって、本件再審の請求についての請求人の地位等、その余の点について論ずるまでもなく、本件再審の請求が不適法であることは明らかであるから、旧刑訴法五〇四条により棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡田良雄 裁判官 木村元昭 松吉威夫)

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